沖縄に関するミレニアル世代の声:本土復帰後世代の沖縄県民が抱くアメリカ基地存在意義に対する意識調査
チャールズ・E・モリソン、知念ダニエル
日米財団支援によるイースト・ウェストセンター企画の報告書
実施概要
本報告書はイースト・ウェストセンターが日米財団の支援を受けて行った、沖縄の米軍基地に対する沖縄の若・壮年層の人々の意識調査についてまとめたものである。対象年齢は、1972年の本土復帰後に沖縄で生まれ育ったミレニアル世代と呼ばれる20〜45歳[以下、M+沖縄人(ウチナーンチュ)]となっている。これらの対象者らは、生誕時から既に日本国民であり、日本政府による教育課程を修了している。対象者らの生涯を通して、米軍基地は既に根付いたもの、沖縄の生活に定着したものとなっている。また、この期間において、米軍基地は東アジアでの戦闘には関与していない。M+ウチナーンチュは沖縄総人口のおよそ3分の1であり、選挙資格を持つ沖縄総人口の40%を占める。
本調査は、アメリカ軍関係者による主だった犯罪または事故が発生していない2018年上半期に行われた。より高等な教育を受けたM+ウチナーンチュの主要な意見を判断するため、筆者らは60人程度のM+ウチナーンチュに対し199の質問項目を有するオンライン調査の実施と、いくつかのグループディスカッションを行った。本調査は、沖縄および米国内で進めた中間報告および調査後に行った詳細な審議により補強されている。オンライン調査およびほぼ全てのインタビューは日本で行われた。本調査により得られた知見は、ウチナーンチュの基地に対する態度の科学的世論調査を反映したものではなく概観である。しかしながら我々は、本調査により得られた知見がM+ウチナーンチュの抱く意識を広く反映していると信じている。
得られた知見
・M+ウチナーンチュが抱く米軍基地の存在意義に対する異なる意見の混在と流動性
少なくとも半数のオンライン調査対象者と多くのインタビュー対象者は、米軍基地の存在に対し、「賛成」または「反対」を明言できなかった。幾人かは賛成・反対両方の意見を持っており、その他のほとんどはその問題に対し真剣に考えたことがないため明確な意見を示さなかった。回答者の3分の1は、米軍基地に反対もしくは強く反対という意見だった。これらの反対意見を示した回答者と基地に対し異論を抱く年配層のウチナーンチュは、県内の基地関連に関する政治に対し強い意見を示すと共に、引き続き世論を動かしていきたいと考えていることが理解された。
・不平等な負担という強い認識
大多数の回答者が、日米安全保障条約に賛成であった。しかしながら、回答者の性別、年齢、教育レベルに関わらず、沖縄の不公平な基地負担の大きさを主張していた。この視点は、日本政府が沖縄に負担を押し付けていることに対する憤りと、基地問題に関して同じ土俵で議論する場を日本政府に与えてもらえない沖縄の現状と関連している。沖縄県内でも人口密度が高い地域に存在する普天間基地を閉鎖する目的であるにも関わらず、辺野古岬の新基地建設は民意に反するものであり、政府の沖縄に対する偏見によりもたらされる沖縄への裏切りであると広く認識されている。このような背景を反映して、米軍基地賛成派の中でも、辺野古岬の新基地建設には反対の意思を示した人々がいる。
・数少ない抗議集会
我々の大多数の調査対象者は基地反対の抗議集会に参加した経験がないと回答しており、一握りの回答者のみが抗議集会に定期的に参加するという結果となった。参加しない主な理由として、多忙であることや抗議者の立場や態度に賛同できないという意見がみられた。沖縄県内の老年層における抗議文化の台頭は、1950年代に起こった土地の強制収用を発端としている(島ぐるみ闘争)。若年層の多くが抗議活動に関し非効率、不都合、更には「ウチナーンチュらしくない」というように、いくつかの感情が入り混じった意見を抱いていた。しかし、重大な不祥事は、時として目に見える形で大規模なデモを引き起こす。
・アメリカ軍人に対する好意的な意見
数人の回答者は、個々のアメリカ軍関係者に対して否定的な見解を示したのに対し、大多数である残りの3分の2の回答に最も共通した内容として、個々のアメリカ軍関係者は「友好的」、次いで「協力的
であるという結果となった。しかしながら、事件、事故、騒音、環境的な問題、交通は「要改善が望まれる」という結果となった。アメリカ軍関係者が必要以上に多数在沖しているという意見は少数であった。むしろアメリカ軍関係者の存在は、その存在が役立てられるべきだと肯定的に捉えられている。
・軍コミュニティとの協力や交流に関する広い要望
調査対象のM+ウチナーンチュの間では、基地・沖縄コミュニティ双方の利益のための関係性の向上が広く支持された。これらの要望は特に20〜30歳の若い層に見受けられた。この見解は年齢上昇に伴い減少傾向となるが、31〜45歳の層、46歳以上の層の少数においても前向きな意見が持続していた。我々が話を伺った沖縄県政府関係者も、アメリカ軍コミュニティとのより一層の協力が望まれるという見解であった。
政策への提言
本研究は、M+成人の意見に着目し、明確な政策を示すという目的を持たない。しかしながら、得られた知見は、アメリカと日本の政策に影響をもたらすという観点から、今後はより関心が向けられ、研究が進められるべきだということを示唆している。
・米国広報と広報文化外交のための主な機会
M+ウチナーンチュが軍コミュニティとより親密な交流を望み、米軍基地の存在に対して流動的な態度を示していることは、アメリカ軍とその外交にとって、米軍基地と沖縄間の関係を強化するにあたり、潜在的に重要な機会を与える。地域交流イベントや、その他多くの活動が米軍関係者によって実施されているが、これらは共同活動というよりもむしろ「奉仕」という古めかしい言葉によって表現されることがしばしばである。また、これらの活動は小さなグループに区分化されているため、比較的小さなグループの人々に情報が伝えられるのみである。本調査における数人の回答者は、以前これらに従事していたと述べている。県全体のより若い世代が特別な関心を持てるよう、沖縄の人たちと一丸となり相乗効果的にこれらの企画の見直しや再設計の検討が望まれる。その意味でも、教育や文化交流を目的とした米軍基地への訪問機会増加は重要な魅力となり得る。
・地位協定の更新
日米地位協定の施行内容が沖縄ではよく理解されていない。例えば、教養のある人々でさえも、軍関係者が勤務時間外と基地外で犯した犯罪に対しては刑罰を受けずに済む、と勘違いしているケースも見受けられる。更には環境的な問題に関する深い懸念も存在する。協定は、県の情報、日米地位協定および北大西洋条約機構加盟国を参照し、必要であれば更新または規定を公表することは、沖縄県内の誤解を正すという意味合いにおいても、日米政府間で再検討されてもいいであろう。十分に透明性を確保した上でこの点を再検討するだけでも、沖縄の人の日米地位協定の認識改善に繋がると考えられる。
・多岐にわたる米‐沖縄関係の構築
沖縄の人々および県内の自治体(県とその附属機関)と米国との関係性は、軍関係を中心とした範囲で構築されている。この軍関係中心の関係性からより広い関係性へと拡大するためには、我々の調査対象者らによって指摘されたように、教育や文化関連の促進が望ましいと考えられている。アメリカがこの県に抱く関心は、太平洋の同盟関係そして平和・治安の維持という、一つの県が抱えるには大きすぎる役割からも理解できよう。
・辺野古基地の未来
辺野古海兵隊施設の建設は、今後も引き続き沖縄県内で論争の的となり、庶民や地域の自治体によって反対されることを我々の研究は示唆している。明らかに、沖縄県内では普天間基地閉鎖を目的とした辺野古基地建設は支持されていない。2018年9月に辺野古基地プロジェクトに強く反対する玉城デニー氏が県知事に当選し、また、2019年2月に実施された県民投票で、辺野古基地建設反対が72%であった結果が、その感情を広く反映している。日本政府は基地建設継続に専念し続けているが、法的そして地域の反対と対立し続けるだろう。しかし、この施設に対する抵抗は、不本意な基地負担と等価であってはならない。
・やり場のない憤り
我々のインタビューと調査が示しているのは、中央政府の重要性に関するウチナーンチュの複雑な心境である。海外、特に中国では、沖縄県民が沖縄独立の概念を抱いているとの見解が未だに信じられているのに対し、ウチナーンチュは以前にも増して日本人であるという認識が強くなってきている。他方、沖縄が不平等かつ過度に米軍基地負担の責任を負わされていることは他都道府県から正しく認識されていない、といった悔しさが滲む形で独特な文化に対する強い意思と地方の誇りが表現されることもしばしばである。このことは、政府からの特別補助金の増加によって地方と中央政府の関係をよりこじらせる要因となる。解決への道程は平坦ではない。しかし、本調査により得られた知見は、ウチナーンチュの感情への配慮と、沖縄の豊かな文化およびその日本の多様性への寄与に対し、特別な称賛を与える努力を怠るべきではないことを示している。
略歴
Charles E. Morrison
チャールズ・モリソン ジョンズ・ホプキンス大学より国際研究博士号取得。 上院議員補佐官を経て、イースト・ウエスト・センターで各種の担当官を歴任し、1998年から2016年は同センター長を務めた。1980年以来たびたび沖縄を訪問している。
Daniel H. Chinen
ダニエル・知念 ハワイ大学マノア校より学士号、アリゾナ州立大学より電子工学修士号取得。デジタル産業関連職に従事後、2007年に初来沖し、2009年まで琉球大学客員研究員。現在は沖縄県内各地で理工系専門英語教育に携わるとともに、イースト・ウエスト・センター沖縄支部要員も務める。
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Rev. v2a